過去最多となった生徒数
文部科学省の調査によると、2024年度の全国の高校の生徒数は、全日制と定時制、通信制などを合わせて319万7099人で、このうち全日制は282万6224人と、前年度より2万1724人減って、10年連続で減少しました。一方、通信制高校の生徒数は、前の年度より2万5144人多い29万118人と、9年連続で増加し、過去最多となりました。また、通信制高校の数は公立と私立、合わせて303校で、こちらも過去最多となりました。今や高校生の11人に1人が通信制高校で学んでいる計算になります。通信制高校がここまでの人気になっている理由は何なのでしょうか。
通信制高校が支持される理由
文部科学省が2023年11月に公表した「これからの通信制高等学校の在り方について」によると、近年、不登校生徒数は小中学生を中心に大幅に増加し、2021年度(令和3年度)時点、小中高で合わせて約30万人と過去最多になりました。通信制高校はそのような生徒たちの受け皿として機能している側面があり、需要の高まりに伴って学校数や生徒数も増加しているという状況です。いくつか具体的な例を見てみましょう。
KADOKAWA・ドワンゴが創るネットと通信制高校の制度を活用した「N高等学校」「S高等学校」の生徒数は、両校合わせて2万7,712人(2023年12月末時点)と通信制私立高校の1割以上を占めます。高校卒業資格取得のためにさまざまなサポート体制を設けているのが特徴です。ネットコース・通学コース・オンライン通学コース・通学プログラミングコースの4つのコースがあり、ライフスタイルや目的に合わせて、コースやキャンパスの登校日数が選択できます。学習の不明点は「ネット学習室」で質問でき、三者面談などもあるといいます。また、「クラーク記念国際高等学校」は、仲間と共に学ぶ週5日通学を基本に、その他の通学・学習スタイルを選択できます。通学用のキャンパスは全国に設置されており、スポーツ、eスポーツ、国際教育、宇宙教育などにも力を入れています。
どちらの学校も、通学せずに家で課題をやって卒業資格を得るという従来の形態の他に、通信制とは言いながら週1~5日間ほど普通にキャンパスに通学するスタイルも設定してあって、生徒は自由にコースを選べるようになっているのが特徴です。
かつての通信制課程では、自分だけで学習計画を立てて日々の勉強やレポートをやり遂げる必要がありました。しかし実際には1人で全てやりきることは難しく、卒業に何年もかかったり、卒業自体を諦めてしまったりすることも少なくありませんでした。そこで、通信制高校に在籍する生徒が高校を卒業できるよう学習を支援する目的で設置されたのが「サポート校」です。サポート校では、3年間で卒業ができるよう単位取得・進級などに必要とされる勉強や精神面での支援を行うため、卒業までの学習がスムーズに進むようになりました。しかし、サポート校を利用する場合、通信制高校の学費にプラスしてサポート校の費用が必要となる点がネックになります。このため最近の通信制高校では、サポート校の役割を外部に委託するのではなく、自分たちの学校内でカバーしようという動きが活発になっています。それが週に数日キャンパスに通う「通学型通信制高校」という形になっていて、昨今の通信制高校人気を支える理由の1つになっているようです。
大学の通信教育課程への影響
高等教育機関の調査分析などを行うUS進学総合研究所は、通信制高校の人気ぶりが大学の通信教育課程に与える影響を考察しました。通信制高校2022年3月卒業者は7万993人で、うち大学進学者は1万2,722人となっており、大学進学率は17.9%です。全体の大学進学率は56.6%なので、通信制高校の大学進学率は、まだまだ全体平均とは大きな差があります。しかし、この研究所は「通信制高校で通信に慣れた生徒は、大学についても通信制を選択する可能性がある。また、コロナ禍を経てオンライン授業にも慣れた全日制高校からも通信制大学を選択することは十分に考えられる」と指摘しています。
現在、学部で通信教育課程を学生募集している大学は43大学、そのうち通信課程のみ設置は6大学(放送大学、東京通信大学、ビジネス・ブレークスルー大学、星槎大学、八洲学園大学、サイバー大学)で、その他37大学は通学と通信課程を両方設置しています。今後は大学進学においても、高校生が通学か通信かを選択する時代に入ってくると考えられ、大学側も通学課程の中にオンライン講義を取込んでいくことも含めて、「通信教育課程」のことを本格的に見直していく可能性があります。今後の高校、大学がどのように変化していくのか、注意深く様子を見ていく必要があると思います。